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なべて余はこともなし

昨夜、私は4キロ半のマシュマロを食べる夢を見たのだが、目を覚ましたら、枕がなかった。(トミー・クーパー)

古田敦也は、男の中の男である。

野球

プロ野球はじめスポーツを精神論で語る向きは多い。例えば、一進一退の攻防を繰り広げている試合の結果を予想して、「最後はより強く勝ちたいと思った方に、精神力で勝った方に勝利の女神は微笑むでしょう」というような評論家の物言い。こういう言い草に首をかしげる。

勝ちたいという思い、目に見えないものををどうやって比べたり量ったりすればいいのか。お互い、プロ同士なのだ。勝ち負けという結果の差にそのまま現れるという単純な話でもあるまい。そもそも勝たなければおまんまの食い上げになるのがプロスポーツ選手たちの宿命だ。勝たなければ生き残っていけないプロの選手たちが勝とうと思うのは当たり前の話だ。そういう選手たちの内面を問うような言辞は非礼以外のなにものでもない。

だからプロ野球を精神論で語りたくはない。しかし、今日はその愚を犯す。古田敦也こそ、真に「男の中の男である」からだ。

プロ野球選手として恵まれた体型の持ち主ではない。入団当初、打撃は非力と評された。有名な眼鏡の話も必ずしも不利ではないにせよ、有利な条件になるわけではない。常に故障が付きまとう過酷なポジションでもある。そんな様々な困難を克服して、野村克也に勝るとも劣らない歴史に残る名捕手になれたのは、ひとえにその不屈の精神力の賜物ではないか。

決して気合を前面に出す選手ではない。それはプレーの一挙一動に自ずと現れる。配球を読んだ上での思い切りのいい打撃、同じ球を執拗に投げさせる強気のリード、盗塁を刺す素早い送球、キャッチャーフライを追う軽いフットワーク。そして、何よりもその勝負強さ。いつかの試合、自分で頬を叩いて打席に入り、巨人の石毛(だったか)からセンター頭上に叩き込んだ劇的な一発は今も記憶に残る。頭を丸坊主にして、耳にピアスをし、何かと帽子を脱いではこれみよがしに強さを誇示したがるどこかの選手の勘違いが恥ずかしい。どういう選手がかっこいいプロ野球選手なのか、それはスワローズの背番号27を見れば一目瞭然だ。

野村ID野球を支えた頭脳の素晴らしさについては改めて言うまでもないだろう。ただひとこと言っておきたいことがある。なるほど、古田は野村に出会い、言語に絶するほど厳しい指導を受け、その教えを吸収することで一流の捕手になれた。監督が選手を選ぶ。その点に異存はない。しかし、選手もまた監督を選ぶ。出会いとはそういうものだ。一方通行ではない。その点は頭に入れておいたほうがいい。古田が野村を選んだから、野村もまた名監督になれた。それが万年Bクラスと限りなく弱かったヤクルトが、90年代に黄金時代を築けた最大の要因だろう。野村が阪神の選手には選ばれなかったことを想起すれば足りる。

神宮では打てなかった2000本を松山で打った。去年の200号は仙台だった。いずれもプロ野球とは縁の薄い土地だ。プロ野球の普及に誰よりも心を砕いてきたこの人らしい。

古田敦也は、男の中の男である。

「捕手で二人目の偉大なる記録、大学・社会人出身で初の金字塔」(サンスポ.com)

しかし、2000なんてただの冷たい数字でしかない。グラウンドでプレーする姿を見ることが、ファンにとっての最上の喜びなのだ。だから、一年でも長く現役でいてほしいと切に思う。

でも、今日はこの数字が意味するものを味わって飲もう。同時代に生まれたことに感謝して。ヤクルト・スワローズが誇る不世出の背番号27に乾杯、乾杯、また乾杯。

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