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なべて余はこともなし

昨夜、私は4キロ半のマシュマロを食べる夢を見たのだが、目を覚ましたら、枕がなかった。(トミー・クーパー)

終りに・・・いや、始めにイチローありき

野球

韓国メディアは戦争という言葉を使ったと聞く。確かに、それは野球という名の戦争だった。かくも壮絶な戦いは滅多にあるものではない。9回、不調の藤川に代わって抑えに回ったダルビッシュが重圧に押し潰された。負けたと思った。延長戦は後攻めの方が心理的に有利だ。すると、日本の敗因はコイントスで不覚を取ったことになるのか。だが、日本にはイチローがいた。韓国はイチローとの勝負を選んだ・・・。

ロサンゼルス、ドジャースタジアム。WBC決勝。韓国の先発は、これまで2度日本を下した奉重根。球威こそ落ちていたが、要所での制球力は相変わらずだった。日本は、準決勝進出を決めたキューバ戦で快投を見せた岩隈。いつも通りの冷静なマウンドさばきと、奉をしのぐ抜群の制球力(!)で相手打線を寄せつけなかった。

日本の1点リードで迎えた5回の攻防から、「世紀の一戦」(原監督)は死闘の様相を帯びる。四球の中島を一塁に置いて、青木との間でヒットエンドランが決まる。だが、続く城島は三振。小笠原のバットも空を切り、走った青木も二塁で刺された。三振併殺。

ピンチの後にチャンスあり。統計的には誤りだという。だが、敵の攻撃を封じた韓国は勢いづいた。先頭の5番・秋信守中越えの同点弾を放つ。内角低目の変化球。失投ではなかった。味方の援護を得られなかったことに落胆したわけではあるまい。ただ、追加点がなかったという現実が岩隈の手元をわずかに狂わせた。

岩隈を救ったのは、左翼・内川の守備だった。1死後、高永民のライン際のライナーに果敢に飛び込み、二塁を狙った打者走者を矢のような送球で刺した。あの当たりが抜けていたら、あの送球が逸れていたら、試合はまったく違う展開になっていただろう。6回には、城島が三振併殺をお返しした。

その余勢を駆って、7回、左前安打を放った片岡がすかさず二盗を決め、中島の適時打で一気に勝ち越した攻撃は鮮やかだった。8回も日本野球の真骨頂たる岩村の犠牲フライで追加点。決勝ラウンドは、積極策が功を奏して打線がつながった。磐石の投手陣はじめ選手はみな持ち味を発揮した。前回大会で価千金の一発を打った福留は大目に見よう。

だが、国際試合における韓国の底力は計り知れない。投手陣は、金廣鉉と柳賢振の二枚看板が崩れてもびくともしなかった。そして、少ない好機を確実に物にする打線の集中力。1点差で迎えた9回のマウンドに、満を持してダルビッシュが上がる。ところが、制球が思い通りにならない。負けられない。打たれてはいけない。球はことごとくバットが届かないところへ逃げていく。かろうじて2死まで漕ぎ着けたものの6番・李机浩に同点打を浴びてしまう。絶体絶命。

ただ、日本にはイチローがいた。10回、先頭の内川の右前安打から作った1死一、三塁のチャンス。代打の川崎が遊撃フライに倒れて、打席にイチロー。ここで一塁手はベースから離れた(だから、一塁走者の岩村は二塁をもらったのであって、盗塁したわけではない)。すなわち、走者には構わず一打2点のリスクを負っても(!)、イチローと真っ向勝負するという構えを見せた。

だが、試合後の金寅植監督の話では、「際どいコースのボールを投げて、うまくいかなければ歩かせる」という指示だったという。伝達ミスでベンチの意図が伝わらなかったともいう。確かに、定石では敬遠の場面だ。イチローは前の打席でマウンド上の林昌勇から右越えの二塁打を打っている。内野安打も多い打者だ。押し出しの可能性はあるが、満塁の方が断然守りやすい。

果たして、うまくいかなければ歩かせるという指示はいつのものだったのか。岩村は二塁に進まないと思ったのか。韓国は敬遠という攻め手を自ら封じておいて(あるいは、封じられて)、混乱したのか。

「今後30年間、勝てないと(アジアの国に)思わせたい」。前回大会のイチローのこの言葉が、日韓の野球戦争に火をつけた。球場内でのイチローに対するブーイングは凄まじかった。韓国メディアのイチロー叩きも激しかったと聞く。韓国は青木には敬遠という作戦をためらわなかった。

イチローはファールで粘って林から失投を引き出し、中前に弾き返した。「本当は無の境地でいたかったけど、視聴率が凄いだろうとか、ここで打ったらオレ(何かを)持っているな、とか思った」。大会中、不振にあえいだ世界のイチローを、原監督は彼も人の子だったと言った。違った。イチローイチローだった。それ以上の言葉を費やす必要はない。

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WBC、日本の2連覇。終わってみれば不思議なもので、あれだけハラハラドキドキしながら見ていたのに、興奮もすぐに冷めてしまう。何故だろう。今はただ林昌勇が一刻も早くシェルショックから立ち直ってくれることを願うのみだ。何故って、林は我らが東京ヤクルト・スワローズの抑えの切り札なのだから。プロ野球の開幕はそう、もう来週・・・・・。