なべて余はこともなし

昨夜、私は4キロ半のマシュマロを食べる夢を見たのだが、目を覚ましたら、枕がなかった。(トミー・クーパー)

私は「ゴッドファーザー」に出たくない!

お酒の失敗談はありますか?

ブログのネタとして、こんなお題を頂きました。そりゃあもう掃いて捨てるほどあります。お酒、大好きですから。ただ、最近はあまり飲み歩かないようにしています。はしご酒なんかすると、ろくなこと起こりません。デジカメは二台立て続けになくしました。気がついたら、ここはどこ?真夜中に知らない町をふらふら歩いてたりします。無事、自宅に帰ったらしいものの、翌朝の玄関に靴が片方しかなかったなんてこともありました。

でも、お酒に関して思い出した取って置きの話があります。一席お付き合いを。

あれは学生の頃、友人のオータキくんと和やかに居酒屋で飲んでいたときのこと、「よお、オータキ!」と大きな声がしました。振り返ると、見るからにあちらの筋の方と分かる男の人が若干二名。聞けば、地縁的な付き合いがあるとかで、オータキくんちの知り合いだそうです。ちなみに、オータキくんの父君はあちら関係ではありませんので念のため。

当然、まあ一杯付き合えやという話になります。とりあえず、その兄貴格の男の人を文太さんとしましょう。その文太さん、すでにすっかり出来上がっています。飲めや、飲めやとこちらの都合もお構いましにお酒を強要します。そして、何かというと人の体をばんばん叩きます。多分、酒乱のケもあったのでしょう。全然関係ない隣のカップルにもちょっかいを出します。

そのうち「だいたいこの町はシケたところだから、隣のH市に河岸を変えよう」と申します。

「いや、H市に行くのはちょっと・・・」と私。
「なぜ?」
「つけを踏み倒した店などもありまして・・・」
「いくら?」
「十数万円です」
「その程度でビクビクしてどうする?俺なんか×××したこともあるんだぞ」
(とてもじゃありませんが、書けません)

つけを踏み倒したと言えば、昔、こんなことがありました。大学のゼミの合宿地をどこにしようかとみんなで話し合っていたとき、「京都なんかどうですか?」と先生に聞いたら、
「いや、京都は駄目だ。あそこは借金を踏み倒した店がたくさんあるから」

そうか、大学の先生というエライ人もすることだから、そんなに悪いことじゃないんだと納得した覚えがあります・・・って、コラッ。私の場合は少し混み入った事情(簡単に言えば、他人の痴情のもつれのとばっちりです・・・って、全然簡単になってないか)もあったのですが、寝覚めも悪かったので数年後には返済するつもりだったのに、いつしかうやむやになって時効成立?レッドシューズのママさん、お元気ですか?思い出せば、今も胸が痛みます。この場を借りてお詫び申し上げます。m(__)m

話が脱線しました。閑話休題。さてそんなこんなで、こちらはビクビクしながら、H市で2軒ほど連れ回されたでしょうか。いつの間にか終電もなくなりました。「じゃあ、うちの若い衆が寝泊りするところが近くにあるから、そこで寝てけ」。その頃には私たち二人もぐでんぐでんだったのだろうと思います。その若い衆とやらが寝泊りするところにふらふらとついて行きました。こういうのをタコ部屋と言うのでしょうか、たくさんの布団が敷かれた大きな部屋だったことを覚えています。週末で皆さんお出かけだったのか、はじっこのほうに若い衆さんが2、3名寝ているだけでした。文太兄貴の姿はいつの間にかありませんでしたが、私も適当な布団にばたんきゅーしたかったはずです。

ところが、眠れません。なぜか。その布団というのが、めちゃくちゃ臭い!のです。連日、修羅場をおくぐりになっている若い衆の方々の血と汗をしっかりと吸い込んだ万年床のせいなのか、それはそれは鼻が曲がりそうなほどなのです。とてもじゃありませんが、寝ていられません。こりゃあ這ってでも帰ったほうがいいと思って、隣を見るとオータキくんがいつの間にかいません。

おトイレのようでした。ところが、一向に出てきません。声をかけても、ノックをしても、「火事だ~!」と小声で(連日、修羅場をおくぐりになっている若い衆の方々が若干名寝ておりましたので)叫んでも、鍵をかけたまま出てきません。実は、あまりお酒が強くなかった彼は、トイレに入ったまま酔い潰れてしまったのです。

困りました。たいへん困りました。正直、オータキくんを見捨てて、一人で逃げちゃおうかとも考えました。でも、友達思いで鳴らす私にそんなことはできません。結局、そのタコ部屋で一晩明かすことになったのです。本当は私も力尽きて寝てしまったのかもしれませんが、そういうことにしておきます。

さて翌朝早く、再び文太兄貴が現れました(何でだよ~)。「今日は親分にあいさつに行くから」とか申します。こちらは二日酔いで、意識はまだ朦朧としています。親分ではなく、若頭とか舎弟頭とかいう肩書きの人だったかもしれません。

「お前たちにも会わせてやる」

(だから、何でだよ~)。これを専門用語では、拉致、もしくは誘拐と言うのかもしれません。ともあれ、私たちはなす術なく車で親分宅へと連れて行かれました。

金子親分(仮称)はとても立派なお屋敷に住んでいました(やっぱり親分だったのかしら)。さっそく親分が鎮座する部屋に通されました。地元の小さな組なのでしょうが、それでもまるで映画みたいに貫禄十分でした。床の間には由緒正しそうな日本刀なども飾ってあったような気がします。物腰は柔らかく、なぜか親分は業界事情を色々と聞かせてくれます。文太兄貴にいたっては、「なかなか見込みのある若者です」とか口添えします(だから、見込みって何だよ~)。

明らかに、事態は急を告げていました。これって、もしかして就職の面接?俺たち、まさかリクルートされてるの???

親分が聞きました。「で、君は何学部なんだい?」。私はきっぱりと答えました。「文学部です!」。えっ?という表情で、隣のオータキくんがこちらを見ました。私は目顔で「余計なことは言うな」と制しました。

実は、私は法学部に所属していました。弁護士を輩出することで少なからず有名な大学の法学部です。親分からこの質問を受けた私は、映画好きだったせいか、瞬間的に「ゴッドファーザー」のロバート・デュバルを思い出してしまったのです。デュバルさんは血で血を洗う暗黒街の抗争に明け暮れるコルレオーネ家の専属弁護士を演じました。

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(金子・・・じゃなくて、ドン・コルレオーネ親分の後ろに常に控えています)

仮に弁護士になったとしても、私にこの役は無理です。元来が虫も殺せない性格です。血なまぐさい現場を直接担当することはあんまりないにせよ、切った張ったの世界は荷が重過ぎます。たとえ平凡でも、かたぎの世界で慎ましく生きていきたい。第一、あんな臭い布団で寝なくちゃいけないなんて嫌です!そんな思いが言わせた、とっさの嘘でした。

「はい、チェーホフツルゲーネフなんかを研究しています」

その頃はまだ読んでいなかったかのですが、あちらの世界にはあまり用のなさそうな高尚な名前を出しては必死に煙に巻こうとしました。それが功を奏したのだと思います。急きょ、文学部に移籍したおかげで、難を逃れることができた。今でもそう信じています。

最後は、金子親分に「まあ、困ったことがあったら、いつでも来なさい」みたいなことを言われて退席しました。「いえ、困ったことがあったら、警察に相談します」とは、口が裂けても言わなかったと思いますが、やっと解放された安心感のせいか、この辺の記憶はまったくないのです。あ~、でも良かった。

あれれ?お酒での失敗談を書くはずが、成功談になってしまいましたか。でも、あのときの機転のおかげで今のかたぎの自分があるのだと思えば、ちょっとした感慨があります。外でお酒を飲むと、こんな危険も付きまといます。お酒は、飲んでも、飲まれるな。皆さんもご用心あれ。