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なべて余はこともなし

昨夜、私は4キロ半のマシュマロを食べる夢を見たのだが、目を覚ましたら、枕がなかった。(トミー・クーパー)

夢十夜

第一夜。

こんな夢を見た。

読売のユニフォームを着ていた。苦節うん十年年来のスワローズ狂を自認するこの私が、よりによって巨人軍のユニフォームを着ていた。これは捨て置けぬ。解釈しなければならない。

野球選手になった夢を見るのは分かる。それが、子供の頃の夢だったからだ。その夢の名残りが、私の無意識のなかで、いまだ癒えぬ古傷のように疼くのであろう。

問題は、なにゆえ巨人軍だったのか、だ。だが、ここで白状しなければならないことがある。実は、私には巨人軍のファンだった暗い過去があるのである。

まだお○んちんに毛の生えていない時代の話とはいえ、小学校低学年の頃まで、現ソフトバンク監督の王貞治選手を誰よりも愛する熱烈な巨人ファンだったのだ。

王選手が三振をすると、ナイアガラの滝のような涙を流し、たとえ不調だったとはいえ、王選手に送りバントを命じたことのある川上哲治監督は、いつか必ず懲らしめてやる・・・と誓うほどに愛していた。

親に買ってもらったYGロゴのユニフォームの背中には、もちろん、燦然と背番号1が輝いていた。近所の子供たちがそれぞれユニフォームを着て、公園に集まる。ほとんどの子の背中には、長島茂雄選手の3があった。1と3ばかりの野球チーム。まるで背番号の機能を果たしていない。しかし、巨人、大鵬、卵焼き。その子供らしくも微笑ましい光景を目にした大人たちは、きっと心なごむ思いがしたに違いない。

そんな私が、なぜ巨人ファンを辞めて、スワローズ・ファンに転向したのか。ここには、私の自我の目覚めが関わっていよう。云わば、偉大なる王選手と決別することで、私は大人への第一歩を記したのではないか。発達心理学上、きわめて興味深いテーマだが、この点についての考察は次の機会に譲るとしよう。

とまれ、私には巨人ファンだったという忌まわしくも、暗い過去がある。およそ履歴書にも書くことはできない。時に、私の背中に哀愁が漂ってしまうのは、このせいであろう。

夢というのは、げに恐ろしい。誰にでも、忘れてしまいたい過去はあるはずである。しかし夢は、忘却の淵にあったそれを、情け容赦なく蘇らせる。

だが、仕方ない。これは事実なのだ。

紛れもなく私は、多摩川グラウンドのマウンドに、読売のユニフォームを着て、立っていた。

というわけで、私は多摩川グラウンドのマウンドに、不本意ながらも読売のユニフォームを着て、立っていた。

各球団の主力選手が自主トレを始めた様子が紙面を飾る頃だから、こんな夢を見たのであろう。

どうやら私は紅白戦に先発投手として登板し、首脳陣のテストを受けるようである。私は現シカゴ・ホワイトソックスの高津投手ばりのアンダースローで投げていた。アンダースローは、古くは阪急ブレーブス山田久志など大好きな投球フォームだから、満更でもない。

バッターボックスに見覚えのない左打ちの外人選手が入った。ロイ・ホワイトでもないし、クロマティでもない。どことなく、デーブ・スペクターに似ている。一体誰なんだろうと怪訝そうにしていると、ベンチから「早く投げろ!」の怒号が飛んできた。幼なじみの友人が、監督のような顔をして叫んでいた。

一昨年、外人妻に逃げられ、去年は会社が潰れてと、踏んだり蹴ったりの挙句、最近、ひとに一言の相談もなく失踪してしまった友人である。小学校の遠足のとき、おにぎりに止まったハエに気付かず、そのまま丸ごと食べてしまった伝説の持ち主でもある。そんなまぬけな奴になんで指図されなきゃいけないんだという理不尽さに憤慨しながらも、何故こいつが天下の大巨人軍の監督をやっているのかということにはつゆ疑問を抱かず、まあ元気そうで良かったという安堵した心持ちで、第一球を投じるべく振りかぶった。

謎の外人打者の胸元を突く渾身のストレートだ。相手の力ないスイングから、ぼてぼてのピッチャーゴロが返ってきた。ものの見事に討ち取った。しめしめと一塁に送球しようとしたところ、身体が石のように固まって動かない。

打者走者が二塁に行けば、ピンチは広がる。打者には投げられたのに、なぜか一塁に投げられない。意味深だ。精神的な病を暗示しているのか。それとも、顔は定かではなかったが、一塁に番長が守っていたからだろうか?

清原が嫌いなのである。K1ファイター並みに肉体改造しながら、怪我ばかりしている。情けない。ゴルゴ13みたいな顔をしている。余計みっともない。それなのに、巨人ファンの間で、絶大な人気を誇る。訳が分からない。

そんな清原になんかボールを渡すもんか~!、という駄々っ子のような思いで、一塁に投げようとしなかったのか。と、そこへ、「サイコウで~す!」ばかりで語彙力に欠けるキャッチャーの阿部ちゃんが、マウンドに駆け上がってきた。本人は血相を変えてるつもりらしいが、もともとのつくりに緊張感がないから無駄な努力である。それでも、俺にボールを寄こせと怒っているらしい。

すると、なぜか私は、絶対に渡すものか!と、グラブに収めたボールを泣きながら抱え込んで地面にうずくまり・・・・・そこで、突然、目が覚めた。

残念である。試合途中なのに時間がなくなって放送が打ち切られるTVの野球中継のようになってしまった。

あのボールは何だったのか。一体、何を象徴していたのであろうか。

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悲しいかな、私にはもう、失うものは何もない。そんな私にまだ、何か守るべきものが残されているのか。夢は、それを教えてくれようとしていたのか・・・。

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